Case.2

私と家族に、笑顔をくれました

美奈子43歳、地方在住の専業主婦。
人生を見つめ直した先にあった、カーリースという選択。

カーリースという新たな選択肢。

「実は私の車、カーリースなのよ」

そう言うと、2人はポカンと口を開けたまま数秒間固まっていた。

「え? カーリースって、レンタカーみたいなもの? 自分で自由に使えないってこと?」

最初に口を開いたのは香織さんだった。

「ううん。そんなことないよ。簡単にいうと、リース会社から車をレンタルするような感じかな」

「それって、レンタカーと何が違うの?」

「“わナンバー(※1)”じゃないし、車を選ぶときには色やオプションも自由に選べるの(※2)」

(※1 「わ」や「れ」で始まるナンバーはレンタカーやカーシェアリングに使用される車を表します)

(※2 ただし、返却時に元の状態に戻すことができない改造はNG)

「ええー自分の車じゃないのに、カスタマイズできちゃうんだ!」

今度は三穂ちゃんが言った。

「そうなの。リース契約している間は、車の所有権はリース会社にあるんだけど、契約期間が終わればそのタイミングで購入して、自分の車にすることもできるんだよ」

「購入せずに、リース契約を更新するっていうのもアリ?」

「もちろん。もし他に気になる車があれば、別の新しい車をリースすることもできるの」

「ねぇ、支払いはどうなるの?」

香織さんは、お金のことが気になる様子だ。

「例えば200万円の新車を5年間リース契約するとして、5年後に車の価値はどうなっていると思う?」

「そりゃあ家と同じで価値は下がるでしょ。時間が経っているんだから」

「その通り! 仮に契約が終わる頃にその車の価値が50万円になっているとするじゃない(※3)。新車時の200万円から50万円を差し引いた金額、つまり150万円を5年間で分割払いすることになるの」

(※3 このような車の残存価値のことを、略して「残価」と言います)

「なるほどねぇ。じゃあ、その残りの50万円を払えば自分のものになるのね。でも、美奈ちゃんは何でカーリースにしたの?」

2人ともカーリースに興味が湧いたようで、前のめりになっている。

「やっぱりみんなと同じで、新車を買うにはお金の面で躊躇していたの。子どもの学費のこともあるし、いざっていうときのために貯金は減らしたくないし。でもカーリースなら初期費用がかからないから……」

「えっ! 初期費用が0円で新車に乗れるの!?」

普段冷静な香織さんが目を丸くしているので、思わず笑ってしまった。

「そっ、そういうことだよ(笑)。それに、自動車税や車検の費用、定期的なメンテナンス料も全部リース代に含まれてるの。だから車にかかる金額が、毎月一定なのもいいなって思って。急な出費がないから、自分のおこづかいもキープできるし。それだから、ほら」

私は、スペシャルランチだけに付くデザートプレートを指さした。

「わぁ、美奈ちゃん賢いー。そっか、カーリースという手があったか」

「そういう私も、この間まではどんなものか全然知らなかったんだけどね(笑)。実は、カーリースにしたのは妹のおかげなの」

私はスマホの画像フォルダを開き、妹の写真を2人に見せた。

車の中では、不思議と本音が溢れ出る。

妹の真央子は東京でフリーライターをしている。

毎日忙しいらしく、なかなか連絡を取り合う機会もないが、2カ月ほど前、そんな真央子から「久々に会いたい」という電話があった。取材で仙台に来ていたが、急な予定変更で明日の昼間が暇になってしまい、こっちに遊びに来たいとのことだった。私も特に用事がなかったので、二つ返事でOKをした。

「去年のお正月ぶりだっけ? お姉ちゃん全然変わらないね。あ、でも車の運転は本当に上手になったよね(笑)」

「まぁね。こっちは車がないと生きていけないから。そうだ、車といえば真央子に相談したいことがあったんだ。そろそろ新しい車に買い換えようかなって思って。あんた車に詳しいでしょ、どんなのが……」

他愛もない話をしながら海沿いの国道を走っていると、真央子が急に黙ってしまった。

「真央子? どうしたの?」

「お姉ちゃん、ずっとここで暮らすの? もう横浜に戻ってくることはないの?」

「え、どうしたの急に?」

「……実は、ちょっと前にお父さんが倒れたんだ。あ、でも今は全然平気だから心配いらないよ」

「いつの話!? 何で連絡くれなかったのよ!」

一瞬、頭が真っ白になり、私は思わず大声を出してしまった。

「半年くらい前。でも私はお姉ちゃんに連絡しようとしたんだよ。だけどお父さんが『大したことないし、美奈子は遠方で暮らしているから』って」

そうだ、父は気遣いの人だった。温厚で愚痴ひとつ言わない父の性格を思うと涙が出そうだった。

「今回のことで私も考えちゃった。将来のことをいろいろとね」

この10年余り、私はこっちでの生活や子育てにいっぱいいっぱいで、実家の問題をすべて真央子に任せていたことに気がついた。きっと今回のこと以外にも小さなトラブルは起こっていただろう。しかし、真央子や両親は私に知らせずに、自分たちだけで解決をしていたのだ。そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、少し切なくも感じた。

「……ごめんね」

もっといろいろ言いたいことがあったけど、私は真央子に謝ることしかできなかった。

「あ、ううん。大丈夫。ただ、お姉ちゃんが車を買うっていう話を聞いて、何だか急に寂しくなっちゃったの。ずっとこっちで生活していくんだなっていうか、もう“こっちの人”になっちゃったんだなって……。でもね、お父さんもお母さんも全然元気だし、心配しないでよ」

そう言って、真央子は唇をかんだ。本人は気づいていないかも知れないが、子どもの頃から真央子は強がりを言うときに唇をかむ癖があった。真央子はもっと私に頼りたかったんだな、と思った。